11月22日（金）19時から、NTTクレドホール第2会場にて、2020年公開予定の五藤利弘監督作『おかあさんの被爆ピアノ』ワークショップが開催され、映画のモデルとなった矢川光則さん、本作の美術担当で広島国際映画祭代表の部谷京子、俳優の栩野幸知さん、映画監督の沖正人さんが登壇されました。時折会場から笑い声も聞こえる和やかな雰囲気の中、映画撮影秘話や被爆ピアノに込めた想いを語られました。

この映画は、原爆が投下された後も奇跡的に焼け残った「被爆ピアノ」を修理・調律し、その音色を全国に届ける活動を行っているピアノ調律師・矢川光則さんと、実際に被爆ピアノを寄贈された方をモデルに製作されており、本ワークショップには実際に矢川さんが修理した被爆ピアノも設置されました。

実際に劇中で被爆ピアノを演奏されたクラーク記念国際高等学校広島校の三宅乃愛さん、竹田彩華さん、末川夢乃さんによる演奏と歌、歌手の谷本惣一郎さんによる弾き語り演奏が披露され、会場に流れるピアノの美しい音色と歌声に皆うっとりと聴き入っていました。

五藤監督はドキュメンタリーの撮影をきっかけに2009年に矢川さんと知り合い、以後10年にわたってこの映画の企画を練ってきたとのこと。実際に矢川さんが活動に使用しているトラックや工房を借りて撮影したり、原爆が投下された日の様子を忠実に再現したいという気持ちから撮影スケジュールを何度も変更したりといった撮影秘話が語られました。

最初は興味本位で被爆ピアノのイベントを開催したという矢川さんは「思った以上の反響をいただき、『こういう平和の伝え方もある』と考えさせられた」と振り返りました。被爆ピアノについて、被爆による当時の傷はそのまま残しているそうです。「物言わぬピアノには人々の特別な想いが込められており、これ自体が史料でもあり、平和学習の教材でもあり、重要な役割を果たしている」と参加者に語りかけました。

五藤監督は修学旅行で広島を訪れた学生に実際にピアノを演奏してもらう試みについて触れ、「被爆ピアノに触れる修学旅行生たちの目が輝いていたのが強く印象に残っている。このことは彼らの中で一生忘れられない経験になっていると思う」と感慨深く話されました。