広島国際映画祭 HIROSHIMA INTERNATIONAL FILM FESTIVAL

  1. ホーム >
  2. ニュース >
  3. 僕の作品を観て誰かの寂しさが和らいでくれると嬉しい キム・ジョングァン監督ティーチイン

News
ニュース

2023/11/26

僕の作品を観て誰かの寂しさが和らいでくれると嬉しい キム・ジョングァン監督ティーチイン

11月25日(土)13時10分からNTTクレドホール第2会場にて、キム・ジョングァン監督のティーチインが行われました。同日午前の『夜明けの詩』上映後に行われたトークショーに引き続き、フリーパーソナリティーのキムラミチタさんが聞き手となり、和やかな雰囲気で始まりました。

キム・ジョングァン監督ティーチイン

まずはどのように映画監督を目指すようになったのかなど、監督の子供時代の話から始まりました。目立たない、本を読んだり映画を観るのが好き、そして想像好きな子供で不安な気持ちを想像の世界へと昇華するようになり、自然と映画の世界にも昇華するようになったそうです。

20代半ば頃、映画学校へ通って勉強を始めるまでは、約2年ほどトラック運転手や下着販売をしていたので、映画を撮るような人生ではなく現状に満足していなかったそうです。やりたくない事でしんどい思いをするくらいなら、やりたい事でしんどい方がいい。勇気を出して映画業界へ飛び込んでかれこれ20年くらい経ちますが、ストレスが多くても辞めたいと思ったことはないそうです。一生の仕事として挫折もするし失敗も多いけれども、改善してどうしたらよいかを考えるとのことでした。

また、監督になる前のエピソードとして、映画学校へ通う友人に頼まれて一度だけ俳優をしたことがあるそうです。死んだ彼氏の役で、白パンツにタンクトップの血みどろ姿。ひとりで建物の横に立たされ、カメラは遠くから撮影していたので恥ずかしかったと振り返り、経験としては楽しかったけれど、俳優の才能はないし、俳優より映画を撮る方になりたいと笑いを交えながらお話しされました。

キム・ジョングァン監督ティーチイン

映画を撮るアイディアはどこから?とキムラさんから尋ねられた監督は、「創作的な緊張感を持って生きていて、生活の中での感情をどうすれば創作的な世界にできるかずっと考えています。子供の頃は現実逃避として想像の世界にいたけれど、今はしんどい経験があっても自分自身を見つめ直して創作に変えていくことに興味があります。創作の為に考えるのではなく、なぜ自分は辛いのかを見つめることが創作に繋がるのです」と答えました。

さらに「映画や本の中の人物や世界が似ていると寂しさが和らぎます。僕の作品を観て、誰かの寂しさが和らいでくれると嬉しいです。そのためには自分に正直な作品を作らなければいけないと思います」との言葉が印象的でした。

日本映画についての問いで、監督が「高峰秀子が一番好きです」と言うと、会場内にいた同年代の観客からオーっと声があがりました。また、韓国映画との共通点は、人間に対して深く考察する映画が多いとのことでした。

後半の質疑応答ではいろいろな角度からの質問に、一つひとつ丁寧に答えられた監督。好きなことで苦しいと思った感情について問われた際には、「映画業界へ飛び込む前は不満と孤独を感じていたこともあったが、希望ある人生を送るために叶わないような事柄にも挑戦しようと選択しました。その結果、今も大成功したとは思わないが、まだ課題も多く伸び代のある創作者になれたと思います」と答えました。

キム・ジョングァン監督ティーチイン

テレビドラマ、映画の脚本等のシステムの違いについての問いには、「各分野ですべて異なるいろいろなシステムがあり、今は映画に投資が集まらないのでドラマを撮る監督も増えています。一監督として様々なシステムを学ぶ必要があり、挑戦しないといけないと思っています。創作者として生き残る為には勉強しなければなりません。また、創作者として生きていく中で2つの悩みがあり、自分に正直に生きる理想と、創作者として自分を維持していけるのかという現実。最終的には自分に正直に生きていきたいです。それができないならやめると思います」と、丁寧に言葉を選びながら答えていました。

『夜明けの詩』の照明の使い方についての問いには、「今回の映画は創作的な欲を込めて、低予算で作った映画です。自分がやりたい事を試してみました。暗い場所でも目を凝らしたらいろいろなものが見えてきます。重くても暗くても、その中から私に似た忍耐力のある誰かが何かを発見できる映画にしました。これは照明の話でもあり、内容の話でもあります」と答えました。

キム・ジョングァン監督ティーチイン

ロケ現場は自分の生活に近い場所で、ほとんどの映画を自分の住んでいる街で撮影しているそうです。そのため監督だけは徒歩出勤できるそうです。「親しみのある街や道を映画で撮ることで特別感があるのが面白いし、いつか広島にもスポットライトを当てられる路地を見つけてみたいです。とりあえず広島のいい居酒屋を教えて下さい!」と監督が話すと、会場から笑いが起こりました。

「これから先、映画を撮っていく中で一番大切にしたい事は?」との問いには、「何が重要かは変わっていきます。僕が変化していくことで創作物も変わっていきます。他人に対して愛情を持って世界を広げていけるのではないでしょうか。内向的な特性と人と触れ合いたい外向的な特性が衝突することもありますが、昔大きな一歩を踏み出したように、また勇気を出して一歩を踏み出すことで創作していきたい」と応じました。

「監督にとって映画祭とは?」と聞かれると「身を乗り出すように相手と交流する場であり、とくに広島国際映画祭は6年前に短編映画を出品し、今回は短編映画の審査員として参加しています。6作品の中から2〜3つの賞が出るのでかなりの高い確率で貰えますが、6年前自分は貰えなかったです。でも、こうして縁が続いていることが大切ですね」と茶目っ気たっぷりに答えていました。

最後に「今回3回目の参加になりますが、友達のように親近感のある映画祭に参加できて嬉しいです。創作者としても刺激を受けていますし、またみなさんの糧となってもらえると嬉しいです」と、温かな言葉で締めくくりました。

« »