ポジティブな力を持つ作品を、世界中から集めた映画祭。

『片思い世界』(バリアフリー上映)小さな声を拾い上げる映画作り

1130日(日)午後1時からNTTクレドホール第1会場で『片思い世界』(バリアフリー上映)が上映されました。

『花束みたいな恋をした』(2021)で大きな反響を呼んだ土井裕泰(どいのぶひろ)監督と、脚本家の坂本裕二さんが再びタッグを組み、広瀬すず、杉咲花、清原果耶を主演に迎えて描いた希望の物語です。優しさを失うことなく前を向く彼女たちの、まぶしいほどの命のよろこびを描きます。

本上映はバリアフリー上映として、視覚障害者向けの字幕や、聴覚障害者向けに映像が伝えている「情報」を説明するナレーションが流れます。また、HELLO!MOVIEというアプリの利用や、モニターにトークショーの内容をリアルタイムで表示するなど、多くの人が映画鑑賞を楽しむ工夫がなされています。

土井監督は広島県広島市出身。まわりに映画館がたくさんあったため、中学生の頃から一人で映画を見に行っていたと思い出を振り返ります。特に同じく広島県出身の大林宣彦監督が来広した際には、登壇者として壇上に立つ今とは反対に、観客として足を運んだと話します。

『片思い世界』制作の話があがったのは『花束みたいな恋をした』のロングラン上映が終わるぐらいのころ。内容が決まる以前から、主演は広瀬すずさん、杉咲花さん、清原果耶さんの3人にオファーすることが決まっていたそうです。『花束みたいな恋をした』で話題となったコンビだけに、同じようなテイストの映画を求められているのだろうなと思いつつも、送られてきたプロットは全く違う方向のものでワクワクしたと話しました。

世界観を作り上げるためにまず美術製作から進めていったと振り返ります。特に3人の世界のアナログさを演出するために、服の中にパッチワークなどハンドメイドのものを入れることにこだわったそう。

主演3人、それぞれの役はキャラクターが違うけれど、3人で1つであるという印象を受けたと言います。物語は事件から12年間までの日々はほとんど描かれていません。撮影の合間も他愛のない話をしながらずっと3人で一緒にいる姿から、3人が物語では描かれていない空白の12年間を埋めようとしているのだなという印象を受けたと話します。

土井監督は、映画制作において「正解」を提示するよりも観客自身が自由に感じられる余白を作ることを大切に制作しているそうです。監督は「長年の監督人生から自身の作品が知らないところで誰かの人生に関わっている。世の中に届きにくい小さな声を、エンターテイメントを通して世に伝えることがひとつの使命であり、長年の自分のポリシー」と映画監督としての覚悟を話しました。

最後に土井監督は「人生において映画やドラマに助けられることがある。映画館でしか得られないものがあるはずだから、ぜひ映画館に足を運んでほしい」と観客へ向けメッセージを贈りました。