ポジティブな力を持つ作品を、世界中から集めた映画祭。

国際短編映画コンペティション ベニアル・スー監督インタビュー 海外に暮らす疎外感を伝えたい

11月29日(土)17:40からNTTクレドホール第2会場で国際短編映画コンペティションAノミネート作品の上映とトークショーが行われました。上映作品は『迷子のマレーの虎』『川は静かに流れる』『折り鶴と蒼い蛙』の三本。上映後のトークショーには『迷子のマレーの虎』よりベニアル・スー監督、『川は静かに流れる』よりマイ・フェン・チー監督、『折り鶴と蒼い蛙』より主演の坂本翔絆さんがゲストとして登壇しました。
トークショー終了後、『迷子のマレーの虎』ベニアル・スー監督にインタビューを行いました。監督はChatGPTの音声翻訳を使いながら、一つ一つ丁寧に質問に答えていました。
まず、撮影で大変だった点について伺うと撮影期間の短さを挙げました。今作は撮影期間わずか4日のハードスケジュール。加えて、前日に雨が降り足元が悪くサルのフンの臭う森の中や、宗教上の配慮を必要とする場所での撮影など、撮影環境の苦労もあったそうです。
次に作品に込めたメッセージについて伺うと、父が息子を探す物語を通して海外に暮らすマレーシア人が感じる疎外感を伝えたいと語りました。監督自身、コロナ禍で出身地のマレーシアへ3年間帰国できず、祖母の葬儀への参加も叶わない中で、台湾で馴染めない不安や焦り、言葉にできない憂鬱を味わったそう。こうした自身の経験と、当時父へ伝えられなかった想いが映画を作るきっかけになったと振り返りました。
タイトルの意味についても伺いました。「今作では物語全体を通してマレー虎を象徴的に描いています。中国語タイトルでは”馬來亞虎”とそのままタイトルに使い、英語タイトル”Misfit Tiger”ではmisfitという単語を使い、変わり者、迷う人、居場所を失った人、の3つの意味を示しています。」とのこと。加えて、日本語タイトル『迷子のマレーの虎』については「とても良いタイトル」と気に入っている様子で笑顔を見せていました。
作中では息子カー・チュンによる創作の場面が多く登場します。中でも印象的な、息子カー・チュンがマレー虎と自身を重ねて描いた自画像についても伺いました。こちらは監督の後輩が映画のために描いてくれた作品だそう。「父ベン・スンは失踪した息子を探す過程を通して、息子が抱えていた困難や、息子に対する理解の至らなさに次第に気付いていきます。その際、息子の創作品は父子間の理解を助けるでしょう」と語りました。
最後に、終盤の父が身元不明の遺体と向き合うシーン、森の中で虎と出会うシーンについて伺うと「失踪した息子は既に亡くなっているのかもしれない。あるいは、虎は息子が別の形、生き方で生き続けている姿かもしれない」と説明。重層的な解釈を観客に委ねる結末であることを明かしてくれました。