11月29日(土)12:30よりNTTクレドホール第2会場にて、アニメーション映画監督・片渕須直氏によるティーチインが開催されました。片渕監督は今年で12回目の登壇となります。会場には監督の最新作を待ち望むファンや、制作裏話に関心を寄せる観客が多く集まり開場前から期待感が満ちていました。

監督は「出来上がった映画を見る機会はたくさんあるが、制作途中の映画に触れる機会はなかなかない」と語り、今回は最新作『つるばみ色のなぎ子たち』の途中経過を観客へシェアすることで、映画の作成途中にもある魅力を伝えたいと説明しました。作品は、清少納言の『枕草子』で一度だけ登場する人物「源少納言」に着目した物語です。これまで正体が曖昧な人物とされてきた源少納言ですが、資料を丁寧に辿ることで多くの情報が見えてきたと語り、その発見の積み重ねが映画制作を後押ししたと語りました。
制作過程では、清少納言のおおよその生年、夫である橘則光との関係など、細かな点まで資料に基づいて丁寧に調べ、考察を重ねていることが語られました。特に平安時代の建築を理解するため、江戸時代の老中・松平定信が失脚後にまとめた平安文化の研究資料を参照したことや、京都の地形から内裏の位置や構造を「立体的に」捉える視点を得たという話は、会場でも大きな関心を集めました。講演では、監督自身が集めた膨大な資料の一部もスクリーンで紹介され、作品が生まれていく背景に触れられる貴重な機会となりました。

質疑応答ではデジタルの関わり方について「資料やテキストとして残された情報をそのまま受け取るのではなく、あえて逆らって考えることで新しい発見が生まれる」と答えました。こうした姿勢が、内裏を立体的にとらえる発想や、源少納言の実像に迫る手がかりにつながったと説明し、情報との向き合い方そのものを見直す大切さを語りました。

会場は終始和やかな空気に包まれ、ときには監督の軽妙な語りに笑いが起こる場面もありました。