ポジティブな力を持つ作品を、世界中から集めた映画祭。

藤井道人監督『正体』トークショー。山田孝之さんと映画制作エピソードを披露

11月29日(土)10:00からNTTクレドホール第1会場で映画『正体』が上映されました。日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)が脱走し、姿を変えながら逃亡を続けるサスペンスヒューマンドラマ。原作は染井為人氏の同名小説です。本作は第48回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞(横浜流星)、最優秀助演女優賞(吉岡里帆)、最優秀監督賞(藤井道人)の主要3部門を受賞した藤井道人監督の代表作です。上映後には藤井監督と、本作で鏑木を追い詰める刑事・又貫を熱演した俳優の山田孝之さんが登場。大きな拍手とともにトークショーが始まりました。聞き手はフリーパーソナリティーのキムラミチタさんです。

『正体』は昨年11月29日に公開され、ちょうど1年の節目にHIFFでの上映となりました。2011年に『埃』でHIFF(当時はダマー映画祭)コンペティション部門審査員特別賞を受賞して以来、毎年のようにHIFFに参加している藤井監督は「広島で皆さんと一緒にこの時間を共有できることをとてもうれしく幸せに思います。広島は第2のふるさとだと思っています」とあいさつ。山田さんは「たくさんのお客さんに来ていただいてどうもありがとうございます」と感謝を述べました。

本作の制作を振り返り、まさにこれまでの集大成になったという監督。例えば年間1本しか映画を見ない中学生の方にもその1本が『正体』でよかったと言ってもらえるよう意識して取り組んだそうです。原作では又貫の存在が薄い中、映画化するにあたり追う側と追われる側、光と影をはっきり描きたかったと言います。刑事・又貫の存在が非常に重要になってくる中で演じられるのは山田さんしかいないということでオファーしたというエピソードを話しました。 藤井監督と山田さんの出会いは約10年前。藤井監督が初めて長編作品に挑んだ『デイアンドナイト』で山田さんがプロデューサーとして参加したのがきっかけでした。山田さんにとっても当時、初めてプロデューサーとして携わった作品で、俳優としてやっていくにしてもいろいろな視点がある方が良いと考えて挑戦し、現在に至るそうです。役作りに関しては、脚本に書かれている人生だけではなく、演じる人物の生まれた時からこの先の未来まで想像してその人がどんな人生を歩んできたのかということを考えながら演じているので精神的にも何本も掛け持ちできないと明かしました。『正体』では又貫の役作りをしていくうちに鏑木に謝りたい気持ちもありつつ警察の立場もあり、板挟みの状態でストレスがたまって髪が全部抜け落ちるのではないかと思ったそうです。

観客からの質疑応答も行われ、お互いを動物に例えるなら?という質問に藤井監督は「ユニコーンですね!静けさの中にすべてを見透かされているようなところがあります」とし、山田さんは「キレイ好きで神経質な猫じゃないですかね。仕事だけですけど!」と笑いを誘いました。 その後、会場の観客と一緒に撮影し、トークショーもエンディングへ。

最後に藤井監督が「この映画祭が続く限り次の作品を上映してもらえるよう日々精進していきます」とあいさつし、山田さんは「たまに自分のことを思い出して作品を見てもらえたらうれしく思います。今日はありがとうございました」と感謝を伝え、大きな拍手とともに会場を後にしました。